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「世界中で苦しんでいる人を救う」
壮大な目標を掲げたのは
彼女が17歳の頃だった
海外医療ボランティアの映像が
彼女を釘付けにしたのだ
専門知識を得
実務経験を積むために
社会に飛び出した
しかし
働き始めて三年
単なる通過点であったはずの
国内の現場が
彼女を苦しめた
救いたいけど救えない患者
触れ合いたいのに余裕がない自分
現実と激務の間で
心も身体も擦り切れた
苦しんでいる人を救いたいだけなのに
なぜ当の私がこんなにも苦しいのか?
彼女はしばらく
職を離れることを決意する
野や山に出かけ
季節の移ろいや
草花の呼吸
川のせせらぎを感じる自分を取り戻した
徐々に仕事に復帰し
再びフルタイムで働くようになる
すると
まるで測ったかのように
再び三年で電池が切れた
弱い自分が情けなくなる
彼女はかつて自分が掲げた目標を
再確認すべく
世界を回ることを決意する
自分が救うべき人々を
自分が救うべき現状を
実際に見に行ったのだ
すると
あふれる貧困と病気
そして
終わらない争い
言葉では言い尽くせないほどに
世界の現実は
想像にも増して残酷だった
「自分には到底救えない・・・」
これが彼女の出した結論だった
再び自分の弱さと無力さに
打ちひしがれた
誰一人救えない
そう思っていた
しかし
彼女が救える
彼女にしか救えない人が
たった一人だけいた
それは
彼女自身だった
彼女はゆっくり時間をかけて
自分自身を救い始める
自分の心と体が喜ぶことを
少しずつ増やしていった
徐々に明るさと笑顔を
その顔に取り戻していく
そうすると
まるで蜂が花に群がるように
彼女の笑顔に
人々が引き寄せられてきた
彼女は自分を救うために始めたヨガを
周りの人に教え始めた
もともと人に教えようと思って
始めたわけではないものだった
自分を救うためだったものが
周りの人を救っていく
彼女はようやく気付いた
まず自分という器に注いだ愛が
溢れることによって
周りの人を救っていくことに
今日も彼女は
自分の器に
こまめに愛を注いでいるだろう
by 深川薫
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